【乱寂】グラビティロリポップ

Hasmi/ 4月 25, 2018/ 小説

 当直のない日でそれが金曜日であること、それが第一条件だった。土日は互いの職業的に公休が取れることが多いので、自然とそうなったといえばいいのかもしれない。元チームメイトというには近すぎて、そして友人というには遠すぎる関係。セフレというカテゴリにいれてしまうのが一番いいのだろうけれど、それでいいのだろうかと自問する。「ま、いっか。つまんないことかんがえるのやめよー」と独り言をいいながら、僕はあらかじめ貰っておいた(奪ったといっても過言ではないけれど、これをくれたことは事実だ)あの男の車のスペアキーを取り出す。いつもの病院の、いつもの職員用駐車場にそっとはいりこんでロックを外した。あの男はまだ来ていないのか車内は夏の空気が充満していて、ムッと暑苦しい。さっさと来ればいいのに、とおもって苛立ちながらキーを突き立ててエンジンをかける。そしてエアコンをいれて助手席のシートに凭れた。最近仕事詰めっぱなしだったからすこし眠いなあ、とおもって目を瞑る。この車のなかはあの男がオフの日につけている香水のようなにおいがしていて、オゾン系の馨りにつつまれながら僕はしばし眠った。涼しい車内でシートに沈んでいると「飴村くん、」とゆっくり呼ばれて目を開けると寂雷がいて、おもわず「おそい、」と頬をふくらませると困ったこどもを相手にするかのように眉を下げて微笑まれてしまった。この男はいつだってそうだ、まるで手のかかるこどもを相手にするかのような態度を取ってくる。「寂雷ってほんっととろいところあるよね、さっさと車出して、今日は熱海方面」そういうと「シートベルト、締めてくれないかな」といって僕がシートベルトを締めるのを確認してから寂雷の運転するグランクーペは滑るように走り出した。犬猿の仲になったといわれる僕たちは秘密をもっている。金曜の夜から、土曜か日曜までともにすごすという秘密をもっているのだ。そう、それは甘い関係ではなくて一方的に始めたものなのだけれど、それが案外つづいているのは隣で涼しい顔をしてBMWを運転している男にも性欲というものがそなわっているからだ。黒いグランクーペは流線形を描いていて、この男の見た目よりはすこしやわらかい印象を受ける。「飴村くん、高速に乗ったけれど今夜はどこへ行けばいいのかな」「待って、いまナビにいれるからそこいって」僕たちは刹那的に身体をかさねる関係だ。だから、意思はほとんど疎通できないでもいいとおもっているし最低限つたわればいい。互いに口数少なくなるのは自然なことで「なにか聴くかい、」といわれたのは寂雷が沈黙に耐えられなかったからだろうか。「んー、べつにいい、余計な音楽とか聴きたくないし耳にはいる雑音ってストレスになる」しばらく無言のまま夜の高速道路を走っていた。「パーキングエリアとかには寄るのかな、」「それもいい、さっさと着いて」ポケットからロリポップを取り出して咥えた。甘い。それはまるで僕の存在のようだ。僕は自分が可愛らしいということを自覚しているし、それが武器だということも忘れないでいる。可愛らしいということは、相手に庇護欲をもたせるということに等しい。まあ、隣に座って運転している男がどうかんがえているのかはしらないけれど。

 約二時間が経過したころだろうか、「飴村くん、着いたよ」といわれたのは僕が何本目かのロリポップを舐め尽くしたあとだった。リゾート施設のパーキングに車を誘導されながら(この遅い時間だというのにホテルの人間はパーキングに立っていた)停めて、跳ねながら降りて「入り口、こっち」といって僕は歩き出す。半地下のパーキングからスロープを上ってホテルのフロントを目指す。夏の夜は蒸し暑くて、僕をやや苛つかせたが寂雷は僕のあとをついてきていて、そのおかげで一転してすこしいい気分になる。「予約していた飴村でーす」といってやや高めのフロントのカウンター越しに手続きを済ませてカードキーを受け取る。客室係が荷物を持とうとしたが、「おねーさんに重たいもの持たせるのはちょっとなー、あと、僕前もここ来たことあるから部屋は分かってるよ」といって客室係を追い払う。「荷物、かさばるからもってよ」というと寂雷が無言で僕のバッグを取った。こいつのこういうところ嫌い、せめてなにか喋ればいいのにいつも湿った辛気臭い顔を張り付けている。僕の荷物は大体が衣類を持ち運ぶためにハンガータイプのガーメントバッグで、それが六つくらいある。十着以上はもってきたので、それだけかさばってしまった。エレベーターに乗って四階の突き当りの部屋を目指す。ここのリゾート施設はめずらしく低層で、高くても四階までしかない。それでも熱海湾が一望出来るのだから、それだけ高い位置に建っていることになる。カードキーでドアを開けて部屋にはいると「まだ仕事をするのかい、」ときかれた。ガーメントバッグをもってきたからだろうし、僕がこの男と金曜の夜からでかけるときは大体そのバッグを大量にもってきている。「寂雷、待てないの」「そういう意味ではないよ、」「うそつき」テーブルと椅子にバッグを置いた寂雷の襟元をつかんでしゃがませると、そのまま噛むようにキスをした。「飴村くんはあまいね、」「いつもじゃない? 寂雷さきにシャワー浴びてくれば、僕はもうすこし仕事するから」「そうさせていただくよ」そういって離れようとする寂雷のくちにもう一度きつくキスをすると、「さっさといってきて」といって浴室へ送り出す。僕はそのあいだにガーメントバッグ以外に持ってきたバッグから布地のサンプル帳を出して、デザインの下描きに布地の種類と色を書き足していく。いまは初夏だけれど、秋冬を通り越して春夏もののデザインをしないと間に合わない。約一年後、自分がなにをしているかなんてわからない。ただ、服のデザインをしているであろうことしかわからないのだ。服は嘘をつかないからいい、サイズ、色、デザイン、生地、なにもかもがぴったり合う人間がいる。様々なジャンルの服をデザインしてきたが、いま取り掛かっているのは春夏に合わせたものなのでサラッとした生地がおおい。綿生地だと皺が寄りやすいとか、それでもなるべくポリエステル素材は安っぽくなるから、などとかんがえながら布地サンプル帳をめくる。単価上げるなら春夏用ウールで、安価にするならレーヨンかな、などとおもっていると寂雷が髪を乾かすドライヤーの音がきこえてきていた。やがてパジャマに着替えた姿で「進んでるのかい、」などと昔のようにやわらかな口調でいいながらのぞきこんでくる。「あーもう気が散る、いいからパジャマいますぐ脱いで。で、そこに積んであるのに着替えて」いわれた寂雷はこんなことを何度も繰り返しているからだろう、「わかったよ、」といいながらガーメントバッグを開けてなかにはいっていた仮縫いのスーツを取り出して着替え始めた。「僕、デザイナーはデザイナーだけどテーラーじゃないんだよね。でも作ったことないジャンルがあるって悔しくない? っていうか僕にデザイン出来ないものなんてないし」三つ揃えのスーツを着てそこに立つ寂雷は人形のようだとおもった。靴下と靴ももってきたので「履いて、」といってバッグから取り出す。「モデルに百九十くらいの男の子使うから、大体そのくらいかな」「飴村くん、」「黙ってて、動かないでそのままで立ってて!」ふう、と深く溜め息を吐くのがきこえたがそれ以来なにもきこえなくなった。ただ寂雷は僕ののぞみ通りにその場に立っていたし、後ろを向けといえば向いた。「ベストの色がちょっと暗いのを修正するのと、ウエスト絞ってジャケットの裾をすこしアシメにした方がいいかなあ。あと、ネクタイは赤か黒にする。寂雷、いいよ、パジャマに戻っても」僕たちはこうしてあっては服をつくっている。そのあと、セックスをする。そんなことを互いの空いた金曜の夜から土日まで繰り返している。しかし、これは断じて恋人というにはドライ過ぎる関係だしそもそもこの陰気な男と恋人関係になるだなんてかんがえたくもない。百九十五センチの身体をパジャマにつつんで横たえながら、「飴村くん、」ともう一度名前を呼ばれた。僕は「すぐいくから待っててよ!」と我ながらヒステリックに(もちろんこの男にしかきかせない声だ)いいながら、最終仕上げとして色指定と生地指定と細部のデザインを書き足してゆく。「はやく、飴村くん」と急かされる。普段、禁欲的にもみえる高潔な男が性欲にまみれた声で僕を呼ぶ。それは最高に気分がいい。ハイになる。「僕、シャワー浴びてないんだけど」と厭そうにいうと「それでもいいから」と蕩けた目をしてこちらをみつめる。まるで目の真ん中にハートがみえるみたいで、それは最っ高にきもちがわるい。「飴村くんのはやく舐めたい、」といわれて僕は着ていた夏用のパーカーを脱いでベッドに上がった。スプリングがきいたベッドが揺れる。「寂雷ってほんっとーに淫乱だよね」と呆れるようにいいながらベルトを外してファスナーを下ろし、下着をずらして性器を出す。「ほら、これが欲しかったんでしょ、はやくしゃぶってよ」「あめむらくんのおおきい、」語尾にハートマークが付いてそうないいかたをしながら、寂雷が目の前に跪いて僕の性器をしゃぶる。いろんなおねーさんとも寝たけど、寂雷はフェラが上手い方だった。というか、正直にいってしまえばかなり上手い。どこで男とセックスをして覚えたのかしらないし、しる必要もないとおもうけれどそれは事実だった。喰らいつくようにフェラをされる。おねーさん達にされるのもきもちいいけど、寂雷にされるのが一番いいだなんて認めたくない。「下手すぎ、もっと上手くしてよ」といって寂雷の喉の奥まで突っ込む。ぐっ、と呻くのがきこえて僕は単純に機嫌をよくする。この男の無様な姿がみたいし、それをみられるとひどく胸がすく。痛快といえばいいのだろうか、そんな気分になるのだ。もっと、もっと、とおもってしまう。結局のところ、互いを嫌い合いながらも僕たちは同じように貪欲で引力に逆らえない。そう、引力だ。惹かれ合う、ではなく引かれ合う。僕と寂雷は磁石のように反発しあって、そしてひたりとくっつく。みつけてしまったのだろう、僕らは互いを発見してしまった。出会ってしまった。一度は終わった関係が、こんなふうにつながっているだなんて皮肉でしかない。いつかこの二度目の関係も終わるときが来るに違いない、始まったものはかならずしも終わりが来るに決まっているのだ。僕の足元に蹲りながら、必死にフェラをしている男が嫌いかといえば嫌いだと答える、だけれども憎んでいるかときかれたらすこし違う気がする。嫌いなんだ、単に。誰に分かってくれともいわないし、分かってほしいだなんておぞましいことはいわない。ただ、この男にだけつたわればいい。お前が嫌いだよと耳元でささやければそれでいい。「小学生にみえるっていわれる嫌いな男のちんこしゃぶっておいしいの?」と揶揄うと、浅く咥えながら「おいひい、」と回らない舌で答えられる。この男に肉欲というものが備わっていてよかったと、僕は心底おもった。初めは単なる強姦から始まった関係だったというのに、なぜかこいつは僕を嫌いだといいながらも車でドライブに連れていくしそのうち泊まりで行動するようにまでなってしまった。「じゃくらいせんせいきもちわるーい、」と僕がくすくす笑いながら何度も喉の奥を突くと、「う、」と噎せるのがきこえる。楽しい。お前が僕のしたことによって噎せるだなんて楽しくてしかたない。それでも吐かれては興ざめなので、くちから抜いて「こっち向いてて」といいながら自分で擦る。寂雷はどうしてそういわれたのか分からないのか、ただ跪いて僕の腰の前に顔を出していた。んっ、といって僕はその顔に向けて吐精する。白くてもったりとした精液が顔にかかって、ドロッと端正なそれを汚した。寂雷の顔は悔しいけれどきれいだとおもう、だからこそ汚したくなるのがロマンだろう。「あっは、怒ったあ?」ときくと、スイッチがはいってしまっているのか「あめむらくんの精液、苦くておいしい」といいながら顔についた精液が垂れてくるのを舐め取っている。べろりと舐められたそれは確かに僕が出した精液だ。淫乱なんてものではなく、化け物を相手にしているようなそんな感覚をおぼえながら僕は「きもいんだけど、寂雷のセックスするときにキャラ変わるのヤバすぎるよね」と罵る。「後ろ、解してあるでしょ」というとうなずかれたので、「それならいいよね、」といって一度ベッドから下りてさっき脱いだパーカーのポケットからロリポップを数本取り出して乱雑にパッケージを剥いた。「ローションは?」ときくとベッドサイドを指さされたので、そこをみると使い切りタイプのものがふたつほどおいてあった。べつに切れても僕じゃないから痛くないけど、さすがにかわいそうなのでやさしい僕はローションをつかってやることにしている。ローションをベッドにおいてから「仰向けになって、そう、脚もっと開いてみせて。恥ずかしくないの、大っ嫌いな僕にこんなことされてさあ。雌だよね、雌のじゃくらいセンセー、これは美味しい?」そういってローションまみれにしたロリポップを肛門に挿入した。「あ、」と声がしたので「いまはいってるの、僕がいつも舐めてるキャンディだよ。分かる? そんなので声上げるの?」更に二本、三本とまとめて白くて細い軸をもちながら、ロリポップを出し入れした。ごく浅いところまでしかはいらないが、それでもきもちいいのか寂雷は「あ、ああっ、」と声を出す。「ひっ、あ、あ、きもちいい、あめむ、ら、くんのキャンディきもちいい」ずぷずぷっと出し入れをくりかえせば、ローションで滑りがよくなったロリポップがかわいらしくてチープな色のまま抽送されている。「もっと奥っ、奥にほしいっ、」「寂雷のよくばり、」といって僕は更に奥までぐりぐりとロリポップを挿入する。「あ、あめむらくんっ……ひっ、ああっ……!」まるで展翅された昆虫かなにかをおもいださせる姿勢のまま、両手でシーツをつかんだ寂雷は声を上げる。最高に脳にくる。普段は澄ました顔をしている寂雷が、僕のロリポップで犯されて声を出してよがっている。僕は自分がふたたび勃起するのを感じながら、まだだ、とおもっていた。ロリポップをもっている手を回転させると、当たり前だが寂雷のなかにはいっているロリポップも回転する。おねーさんにつかったことのある玩具みたい、とおもいながら何度か回転させていると「あめむらくん、それは、いやだ、」と低い声でいわれる。「なーんで? いいんでしょ、じゃくらいセンセー素直になってよ。ねえきもちいい、っていうんだよそれ。いいからさあ、さっきみたいにきもちいいっていってみて」「……き、もちいい」よくいえました、といいながら僕はまた何度もなかでロリポップを回したり奥までいれたりしながら笑った。こんなに楽しい気分はひさしぶりだった、仕事も進んだし、大嫌いな寂雷は僕の手で犯されて喘いでいる。低い喘ぎ声はおねーさん達のものとはまったく違って、初めてしたときは萎えるかもしれないとおもったけれど萎えるどころか興奮して止まらなかった。「きもちいい?」「きもち、いい、」まるで痴愚か何かになったかのように寂雷は僕の言葉を繰り返す。かわいそうな寂雷、きもちわるくてかわいい寂雷、お前はどこまで落ちてゆくのだろうね。僕という人間に出会って、一度別れてからまた抱き合うようになって、そして底なし沼に沈んでゆく。
 散々ロリポップでいたぶってから、「バックでするから後ろ向いて、」というといわれたままにする。身長差四十センチはおおきいので、寂雷がやや腰を下げているのがむかつくけどそうでもしないとはいらないのだからしかたない。「寂雷は雌の素質あるよね、ねえ、じゃくらいセンセー」といいながらいきなり突っ込むと、ローションまみれのロリポップがはいったあとだからかそこはひどくぬめっていた。直腸の粘膜が上下左右からつつみこんできて、僕は快楽の波にのまれそうになる。そもそもこれだけ身長差のある僕によく犯される気になるなあ、などと変なことを感心しつつ腰を動かす。「ひっ、あ、ああっ……あめむらくんの、おおきくてこわれるっ、」「壊れちゃえば? っていうか寂雷もう壊れてるんじゃない、あたまおかしいよ」そういいながら、まだパッケージを剥いていなかったロリポップがベッドの上に一本あったのでそれを剥いて咥える。甘い。寂雷とのセックスは苦いのに、口腔内はいつも通りのロリポップの甘さがする。なんという皮肉だろうね。あたまがおかしいのは僕も同じだ、こんなくだらない関係にのめりこむかのようにセックスを繰り返している。セフレでもないし、かつての知人というのが一番いいのかもしれないけれど。奥まで挿入すると、グチュッと音がしてローションが溢れた。「あ、あっ、」「うるさいから黙って、」「……無理っ、あめむらくんっ、むり、」片手で咥えていたロリポップを持ちながら、「うるさいなあ、」といって弓なりになっている背中に噛み付いた。痛いといわれたので、そのあと困ればいいのにとおもいながらキスをする。そっと背中にやさしくキスをするのだ。おまえがこのキスの意味に困ればいい、あいにく僕には意味なんてものなどないのだけれどそれをかんがえて、かんがえて、そして何かをみつけた気になればいい。その通り、キスをした瞬間、一瞬だが寂雷が黙った。「どーしたの、ほらもっと無様に喘いでよ」といって僕が奥を抉れば、あっという間になにもなかったかのように喘ぎ始めたのだけれど、お前が悩みますようにと僕は願っている。ふたたびロリポップを咥えながら、その長い髪をつかんで犯した。寂雷はひどくされるのが好きなのか、髪を痛いほどつかむと締まるのが分かっておもしろい。「痛い?」ときくと「私は平気だから、」と返される。そうじゃなくて痛いかどうかきいているのに、とおもいつつ僕は奥へ奥へと性器を突き立てる。グッと髪を引くと、寂雷のあたまが斜め上を向くのがみえた。動物のきれいな毛並みみたいだ、そして動物の単純な交尾みたいでもある。きもちわるい。「なんで僕とのセックスを許してるの、」「……すべて、を、ゆるしてはいないよ」ロリポップ片手にきいたものの、おもわぬ答えが返ってきたので僕は不機嫌になりながら「それなら黙ってよ」といって根本まで沈めた。ジュプジュプッ、とローションが溢れて擦れる音がする。「そろそろいく? は……あ、僕はいきそうなんだけど寂雷は?」「私、も、もういく……あっ、あ、ああっ……あめむらくん、いくっ、」そういいながら寂雷の方がすこし先にいった。僕は最低ないやがらせのように生で中出しをする。はっはっ、と寂雷の髪をつかみながら息を荒げているとすこし振り向きながら「大丈夫かな、」と声を掛けられた。そんなふうにやさしさを振りまかれるのはやや苦手で、やっぱりこいつのことは嫌いだとおもった。ズルッと性器を引き抜くと、抜いた後から精液がこぼれて太腿をつたっていくのがみえた。この男のなかにすこしでも自分の精液が残ればいいのに、とおもってしまう。大嫌いな僕が体内に残れば、それはすくなからず厭にちがいない。

「スーツは来年のコレクションにつかうから無理だけど、試着につかったネクタイ持って帰っていいよ。仕事でつけないかもしれないけど、学会とかいくときはスーツでしょ」翌日、朝食をルームサービスで摂ってからふたたびデザイン画に取りかかった僕がいった言葉をきいてから、パジャマのままベッドの上でまだ寝そべっている寂雷はすこしかんがえこんでから「それはどういった意味かな、」といってふふっとほのかに笑った。「なんで笑ってるの、気味悪いんだけど。ネクタイあげるっていってるだけなのに意味なんてある?」やや苛つきながらいうと、「うちのナースがバレンタインのときに意味があるっていっていたよ、興味があればきみもあとで調べてみればいい」「調べない、変な意味があったら気分悪くなるし僕の気が変わらないうちに素直にもらったら?」そういいつつもやはり気になってタブレットで仕事をしているふりをしながら検索する。『ネクタイを贈る意味はあなたを束縛したい』と検索結果に出てきて、僕は舌打ちをしながらタブレットの電源を落とした。真っ暗になったタブレットの画面に映っている僕の顔は苦々しく歪んでいていつもみたいにかわいくない。この男のせいだ。この男がおかしなことをいいだすからいけないのだとおもいながら、「いらないの、」ときくと、「飴村くんが私にものを贈るなんてめずらしいからもらうよ」といわれてまた舌打ちをした。束縛なんてしたくない。束縛なんてされたくもない。自由気儘に楽しくいきて、そして死にたい。タブレットに映った甘いロリポップを咥える僕の顔は歪んで、歪んで、そしてどこか束縛をつかさどる悪魔のようにみえていた。嫉妬も束縛も僕とこの男のあいだにはないというのに。なにもないというのに、くだらない。

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