【黒研/擬獣化】吾輩は研磨である。

Hasmi/ 2月 28, 2018/ 小説

 吾輩は研磨である。
 名前はまだ――って言おうとしたけれど、いま名乗ったように研磨という名前だ。
 三毛猫で、茶色の真ん中に黒い毛が生えている。雄の三毛猫は珍しいみたいだけれど、現におれがいるのだからおかしくはないのだろう。
 おれは気付いたら幼馴染のクロとみゃあみゃあ鳴いていて、自然とそのまま暮らしていた。至って自由な生活だ。
 ただ、この時期はまだいいけれど冬は猫に厳しいし、真夏の暑いのも耐えられない。人間たちは空調の整ったところで、暢気かつ気ままに暮らしてていいなあ、と思いながらおれたちは人間を横目に見る。
 おれはやっと一歳になったばかりだった。
 まだ体格の出来ていない俺を庇うようなクロと、いつも二匹一緒にいた。
 母猫がいたことにはいたが、飼い主が「ごめんね、飼えなくて」と言いながらおれを箱に詰め込んだところまでしか母猫の記憶はない。元々、孤独というものが好きだったし、一匹でいても何も不自由しないはずだった。
 そう、クロに出会う前まではそう思っていたのだ。
 おれはふたたび、家族めいたものを手に入れた――クロだ。
 なめらかでしなやかなのは猫という生き物の特徴だが、クロは息を飲むような存在感があった。長い尻尾が特徴の黒猫で、いつだって面倒見よくおれに構ってくれた。
「なあ、東京から出てみねえ?」
 ある日言われた、気まぐれとも言えるクロの一言でおれたちは旅に出た。トラックの荷台にそっと忍び込んだりしながら、北上する。そうして適当なところで降りながら、気楽な生活を送っていた。
 秋に生まれたからか、極度に暑いのも寒いのも嫌いだった。それをクロは揶揄いながら、そっと気遣いをしてくれる。暑いと言えば木陰にあるダンボール箱を見つけて来てくれるし、寒いと言えばずっとくっついて体温でもって温めてくれていた。  
 いまのところ、しばらくこの街にいることにしたのだろう、おれたちは公園に住み着いていた。遊具のひとつに、家のようなものがあるのが幸いして、ひとが来ない時間はそこにいることにしたのだ。
 しかし、こうして公園でみゃあみゃあ鳴いていると、たまに人間が餌をくれる。
 それは毎日ではない、という程度の頻度なのだが、それでもおれは餌をくれるひとの顔と声を大体覚えた。
「あ、いつもの猫だ!」と言いながら、いそいそとスクバのなかからドライフードを取り出しながらこっちへくるのは、日向翔陽という少年だ。
「餌やってて遅刻すんじゃねーぞ、日向」と悪態を吐きながらも、おれがゆさゆさと尻尾を振ってみせると触りたさそうにソワソワしているのが影山飛雄。
 大体、この二人がこの街に来てからはおれとクロの食生活の要だ。
 人間に媚びるのは嫌いだけれど、翔陽という少年のまっすぐさは好ましかったし、そんな翔陽といつも一緒にいる影山も悪いやつじゃないなと思いながら接していた。
「あー! いつものトサカ猫も来た!」
 トサカ猫と呼ばれているのは、クロだ。
 猫っ毛なのに寝癖がつくのかと最初は少し驚いたけれど、そういった毛質なのだろうと思って、いまとなっては見慣れた姿だ。
 後ろから影山が今度はクロに触ろうとして、スっと避けられていたのが少しおかしかった。あれくらいは難なく躱せるんだなと思うと、自分のことではないのに少し誇らしくなった。
「研磨、はぐれんなよ」
「……ごめん、」
 クロがスンスンと匂いを嗅ぐように、鼻先を押し付けてくると「トサカ猫と三毛猫がくっついてる! なあ、影山見た? 見た?」と翔陽がはしゃいだ。
 少し呆れがちな顔をすると、クロに「相変わらずはしゃいでんのな、こいつ。研磨、餌もらった?」と聞かれた。
「もらった。クロのもあるって、」
「なんか研磨、いい匂いすんな何だこれ」
「……分かんない。ただ、翔陽がくれたものだからおかしいのは入ってないと思うけど、」
 不可思議そうに鳴きながら、足許に擦り寄ると翔陽が楽しそうな顔でこちらを見た。
「なあなあ、トサカ猫、お前もいる? ジャーン! またたび85%の猫エサ!」
「日向、お前85%ってほぼまたたびだろそれ、」
「んー、普通のエサも入ってるし、こいつら腹減らしてるみたいだからいいだろ!」
 またたび入りと聞きながらも、クロが少し警戒して唸る。
 チラッと時計を見ながら、遅くなっちゃったからまた帰りにな! と言って、翔陽と影山は学校へ向かって走っていった。多分、ここからなら間に合う時間だ。
「何かバタバタしてたけど、あいつらちゃんとガッコ行けんのか? どうした研磨、」
「ごめんクロ……なんか熱っぽくて、体調悪いかも……」
 二匹で東京から延々と車の荷台に乗ってここまで来たけれど、あんまり移動しすぎたのが祟ったかな、と思える程度には心臓がバクバクと跳ねる。
 野良猫は強いけれど、こういったときに不便だ。
 家猫ならば、飼い主が動物病院などに連れて行くのだろうが、おれたちはそういったすべを持たない。
 へたり込んでいたおれは、クロに引きずられるようにしてベンチの裏に引き込まれる。
 その頃になると、もうひどく愉快な気分になってしまって、「今日も空は青いね」と言うと、不安げな顔で「そっか、」と返された。
「お前の体調、またたびじゃねーの」
「……それ、もらったの初めてなんだけどこんなになるの? なんか身体熱いし、すごい怖い」
「怖いって?」
「なんか……背中辺りがゾクゾクして、何か這い回ってる感じがするんだけど、逆にそれがずっと続いてて欲しいような……訳分かんない怖さ、でもすごく楽しい、」
 そう言うと、クロはもう一度「そっか、」と言っておれの顔周りの毛並みをべろっと舐めた。
 ベンチ裏の木陰で、引きずられるようにして寝かされたおれはうつぶせになりながら横目でクロを見る。
「クロ、ねえ……暑いってよりは、熱っぽい感じする」
「だから、それまたたびだから身体から抜けるまでジッとしてろ」
「いつまで?」
 この感覚がいつまで続くものなのかと、おれは恐ろしくなる。
 心地よいのと怖いのが相まって、耐え難いほどの衝動を感じる。
「さあ、俺には分かんねーけど、水でも飲めばいいんじゃねえの?」
「水、飲みたいけど水道遠いし……」
 そう言うと、クロが面倒くさそうに、だけれども少し誇らしげに「あーもう、俺がくちに含んで持ってくるからそれ飲めよ、」と言って笑った。そう、この男は笑ったのだった。こんなにも迷惑を掛けられているというのに、楽しそうに、自分がいないと研磨は駄目だなといったような顔で笑った。
「ご、めん……迷惑かけて、」
「こんなこと迷惑のうちに入らねえし、お前のこと引きずり回してるのは俺なんだから気にすんなよ」
 そう言って水道まで行ってしまったクロの後ろ姿を薄い目で見る。
 木陰で目を瞑っていると、秋の匂いがした。枯れ葉の匂いだ。
 もうそろそろ、おれの二度目の誕生日が来る。とは言っても、飼い主に捨てられたので詳しい日付は分からないのだが、覚えている限りの日付を逆算すると十月中旬頃だったと思えた。
 別に飼い主だったひとに恨みはないけれど、クロに出会ってなかったらどうなっていたのだろうと考えるとゾッとする。多分、孤独のままだ。孤独を好んでいるという風に見せかけながら、その深淵が怖いままだっただろう。
 クロが戻ってきた。くちに水を含んでいるので喋れないのか、こちらに向かってくると「ん、」と言いながら口唇を擦り合わせた。
「水だ、」と思いながらこちらもくちを開けて、口移しで水分を補給する。
 ざらりとした舌が触れ合って、熱い身体が更に熱を持った。
 少し溢してしまったものの、運んできてもらった分はちゃんと飲んだ。水の流れてゆくさまも、口腔内から食道を伝い落ちる感覚がよく伝わってくる。
 舌を出して呼吸をすると、「犬みたいな真似してんなよ」とからかわれた。
 おれは猫だけれどね、クロの為なら犬みたいな真似だってするよ、と思いながら「ごめん、」と言った。
 多分この男は、おれがこんなに好意を持っていることを知らないに違いない。だから、おれがごめんと言った言葉の意味もちゃんと伝わらないのだ。その言葉はふわっと浮いて、クロに当って拡散するに違いない。ぶつかって、散ってゆく言葉たち。まるでおれみたいだなと思いながら、クロ、クロ、と名前を呼んだ。
「……なんか、気持ちよすぎておかしいんだ、けど」
「だから寝て時間すぎれば治るから、大人しくしとけよ」
「そうじゃなく、って……身体、熱くて気持ちよくて、クロと大人の猫がするみたいな交尾、してみたいかも」
 熱に浮かされるようにして、そう言ってしまってからしまったと思った。
「――は?」
 案の定、訳が分からないと言った感じで、クロは問いかけたさそうな顔をしてこちらを見ている。
「ごめ、ん……おれ一歳だし身体出来てないから無理かな、それとも雌じゃないから駄目?」
 熱で潤んだ瞳でじっとみつめる。
 ねえ、クロはこれに弱いよねと思いながらその視線でみつめ続けた。
「いや、駄目っつーか研磨はそれ嫌じゃねえの?」
「クロ以外の子見てもつまんないだけだし、それならクロとしたい。クロとしか、したくない」
 そう言うと、クロが改めてしなやかな身体で近づいてきて、そっとおれの頸筋を噛んだ。
 頸動脈の上は噛まれると少し苦しくて、そして必要とされているという感覚から爆発的な快感が打ち寄せる。
「いいよ、そのまま噛み殺したりしても。おれは覚悟してるから、なにされてもいい」
 そう言った自分の言葉を自分で聞いて、あまりにも絶望に満ちていながらもしあわせそうな声で恐ろしくなった。ああ、この男はおれにこんな声を出させるほど、すさまじい魅力にあふれた存在なのだと思うとどことなく誇らしくなる。
 他人に興味のないおれに出来たトモダチ――そういうつもりだったし、その範囲を超えるつもりはなかった。ただ、この男があまりにもおれといるのが楽しそうなので、ほんの少し、その範囲におさまらないでもいいかなと思い始めたのだ。二匹で行動するようになってから、おれはクロが様々な場面でリーダーシップを発揮するのを見てきたし、それが彼の特性なのだと思いながら横で見てきた。
 しばらくおれの頸筋を食んでいたクロを見ると、ピンッと耳を立ててなめらかな毛皮をしており、やっぱりきれいだなあとか思いながらおれは呆然と食まれるままになっていた。
「研磨、研磨」と名前を何度か呼ばれる。
 なに、と聞き返しながら目を開けて見ていると鼻先と鼻先を合わせられた。ひんやりと冷たいそれが心地よくて、火照っている身体が少し恥ずかしくなる。
「お前、なにされてもいいって本当に?」
 真剣な視線が交錯して、おれに答えを求める。
 本当だよクロ、おれはなにをされてもいい、望むことをすべてぶつけてくれても構わないし誰かの代わりにしてもいい。誰かの代わりにさえもならないというのならば、単なる性欲処理に使うだけでもいい。だから、なにをしても大丈夫だよ。
 そんな意味の感情を込めながら頷くと、「俺、雄と交尾したことねーけど痛いんじゃねえの」と聞かれた。痛いのかなと思いながらじっと見つめると、「痛くても泣いても知らねえから、」と言って、クロが俺の後ろに回り込んだ。
 おれたちは人間ではないので、当然のように交尾は後背位しか出来ない。人間は正常位でセックス出来ていいな、と少し思った。互いの顔を見ながらするセックスは、きっと落ち着いたものに違いないからだ。
「研磨、もう少し尻上げて」と言われて四つん這いになりながら少し腰を上げる。
 そして覆い被さりながら、雌の運動不動化を促すような、ネックグリップと言われるうなじの部分を強く噛まれた。
 心地よさとともに、全身が弛緩してゆくような感覚に襲われながら、おれは雌じゃないのに同じ部分噛まれればこうなるんだなあ、と不思議に思っていた。
 クロが何度か大きく鳴いて、周りを威嚇する。
 ベンチ裏の木陰は、ちょうど人間たちからも見えないのか邪魔をするものはいないようだった。
 緩やかに硬くなってゆくクロの性器を感じながら、上手く出来なかったらどうしようといった不安が付き纏っていた。多分、そんなことがあっても気にされないと思うけれど、次はなくなるだろう。
「研磨、止めるなら言えよ」
「……止めないし、最後までする」
 そう言った次の瞬間、ゆっくりと性器が入り込んでくるのが感じられた。雌とは身体の作りが違うので、挿入しにくいのか最初はクロも戸惑っていたようだけれど、それでも先端が入ってくるのは分かった。
 焦らすように入り口付近を出入りしていた性器が厭で、自ら腰を揺するとクロが更にうなじを噛んだ。
 二度噛まれてだらりと弛緩していると、ズズッと性器が入り込んで来た。雌ではないのだから痛みが生じるのは分かっていたものの、想像以上に異物感が激しくて唸った。
 痛いというものは大抵堪えられる。ただ、異物感というものは異様なものだ。そこにあるはずのないもの、という感覚が弛緩した身体に打ち込まれる。そんな状況下にありながらも、おれの性器は先端から先走りを垂れ流し始めていた。
 動物にも前立腺はあるらしいので、そこをゴリゴリと擦られて思わず鳴いた。
 上擦った声で鳴くと、クロが背後から覆いかぶさったまま何度もうなじを噛んだ。何度噛まれてもそのたびに弛緩してしまう、単純な身体だと思いながら地面に前脚をついて声を上げるしかなかった。
 それは喘ぎとは違うものだ。いくら自分が性的な経験がないとはいえ、喘ぎ声と普通の鳴き方の違いくらいは分かる。
 この喉から出るのは、ただの鳴き声。性器が肛門を出入りするのが分かって、異物感と恐怖感に支配されながらも、止めようとは言わなかったし言えなかった。もう、後がなかったからだ。
 その感覚が変わったのは、数分立って異物感に慣れて来てからだ。
 前立腺を擦られているのは分かったものの、それがジワジワと腰の奥から打ち寄せる快感があった。それを上手く拾えるように、快感のチューニングを合わせるようにして、それが合致した瞬間に爆発するような感覚が身体中を走った。
「クロっ……ひ、ぁ、助けて、怖い! んんっ、怖い、なに、これ……!」
 目の前がチカチカと明滅して、いまが午前中だということすら分からないくらい、時間の感覚も何もかもを失っていった。ただ身体のなかにあるチューナーを合わせることしか出来なかった。
 大きな視界をうめつくすような恐怖が、すべてを覆い尽くし、そしてそれを打ち破るかのように快感が落ちてくる。
 そう、落ちてきたのだ。まるで雷が落ちたかのように、一度死んで生まれ変わった気分だった。前立腺を擦られるたびに、おれの先端からはダラダラと先走りが垂れた。気持ちがよくて、おれはここで死ぬのだと思った。幼馴染だけれども、おれの好きな男に犯されながら天に導かれて死にゆくのだと、本気でそう思った。
「研磨ッ、すっげえ締めつけてきて気持ちいい」
 クロに言葉を掛けられて、ふと我に返った。ああ、ちゃんと出来てるんだ、と思って嬉しくなりながらも身体にビリビリと走る強烈な悪寒めいた快楽に縛られていた。
「……ほ、んとに?」
 ああ、本当に。と言いながらクロが奥めがけて突き上げる。おれは触られてもいないのに、先走りが垂れ流しになっている自分の性器は正常なのだろうか? と心配しながらも、与えられる快感に流されるがままになっていた。
 クロが気持ちいいならおれは壊れてもいいな、と思いながら必死に腰を揺すった。ちゃんと雌とするときのように、クロもいいって言ってくれるならおれの身体もこころも壊れて構わない。
 粘膜と粘膜がひたりと張り付いて、ぬちゃぬちゃっと音を立てる。
 クロがおれとのセックスのあいだに、噛み殺してくれれば最高なのにな、と思いながら喘いだ。そう、今度はれっきとした喘ぎ声だった。それは自分でもちゃんと分かった。
「あ、」と短く繰り返し喘ぎながら、必死に何度も自分で腰を揺すってクロの性器が奥深くまで入るようにねだった。
 それは癖なのか、クロはおれがギリギリまで弛緩していることを知っていながらも、何度も繰り返しうなじを噛んだ。噛まれるたびに意識は飛びかけて、フッと浮かぶような感覚に支配された。
 クロ、クロ、クロ、としつこいほど何度も呼んだ気がする――。
 それに対して、分かってるとかここにいるとかなにも言わずに、クロはただひたすらおれを犯し続けた。
 人間はこういったときに便利だな、と思う。後背位しかしらないおれたちでは、セックスの最中に相手の顔なんて見えない。だから、おれは少しだけ人間がうらやましい。
「研磨、悪ぃ、そろそろいきそ」
「おれ、も、気持ちいいから中でいっていいよ……」
 そう答えると何度か深く抉るように腰をつかわれたので、悲鳴のような喘ぎ声を上げていると目の前がはじけた。そう、それははじけたとしか言いようがないほどで、これがいくと言うことなのかと知ったのは後でだった。
 身体の奥が熱くて、クロに精液を注ぎ込まれているのが分かった。何度かゆっくりと搾り出すように動かして、クロはおれの身体から離れた。
 

 抜けたか? と聞かれたので、「なにが?」と聞き返すと苦笑された。
「またたびでおかしくなってたの、抜けたかって聞いてんだよ」
 クロは自分の毛繕いを終えると、おれの毛繕いまで手伝ってくれた。こういったところがマメな男だなと、常々思っている。
 大丈夫……だから、と答えると「またたび入りの飯食うたびにこれだと、身体もたねえ」と言ってニタニタと笑みを貼りつけた。
「お前、俺としか交尾したくねぇとか言ってたけど、それなら俺もはっきりさせとかねーとな」
 散々、うなじを噛まれたことによりまだ力が入らないおれを横目で見ながら、クロは楽しそうに話していた。
 多分、今後はよくて性欲処理だけとか、縁切られるとかそんなだろうな――と思いながら虚ろな目で見つめていると、「嬉しくねえの、」と言われた。
「え?」と返すと、「ちゃんと話聞いてろよ、」と自慢の尻尾で叩かれる。
「だから、俺もお前といる限り、お前としか交尾しねぇって言ってんだろ」
 それはつまり付き合うとかそういったことなのかな、と思った瞬間、ボロボロと涙が零れた。
 泣くなよ、研磨。と言われたが、なぜ泣いてはいけないのか分からなかった。ただ嬉しくて、しあわせで、涙が零れ落ちておれはこれからもクロと一緒にあちこちを移動しながら生きていくのだな、と考えながら精一杯の返事で「みゃあ、」と一声鳴いた。

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